１月23日（木）【室町無頼】
十五世紀、飢饉と疫病で京では八万人もの犠牲者が出ていたが、幕府は庶民のことなど一顧だにしない。浪人蓮田兵衛に拾われた青年才蔵は棒術の修業を経て、兵衛の企てる大規模な一揆に加わっていくが……。
同題の小説の映画化。原作は未読。史実にある寛正の土一揆を元に脹らませた話だそう。冒頭から鴨川縁に死屍累々の凄惨な庶民の様相を描き、美術や衣裳なども人々の悲惨な有り様をこれでもかと再現して力が入っております。が、大泉洋演ずる兵衛の活躍ぶりは娯楽時代劇の英雄そのままで、重くなりそうな話を妙に薄っぺらに描くこの感覚は、ああ、東映だなあ（笑）。登場人物、みんな怒鳴りまくっていて、やくざ映画のよう。アクションは力が入っていて、一揆の場面では近頃見ないような大量のエキストラを動員して祝祭感ある集団アクションを作り出しております。クライマックスの才蔵（長尾謙杜）の長回しの活劇は驚くような出来栄え。兵衛と京の警護役道賢の微妙な関係はもうちょっと渋く描いて欲しかった気もするけど、エネルギーあふれる良作。CG、VFXも大健闘していて、鳥を射落とすシーンとか出色の出来。棒術修業の場面も良い出来。棒術師匠の柄本明、遊女の松本若菜、弓手の武田梨奈ら、役者もはまっています。入江悠監督。
１月21日（火）【トワイライト・ウォリアーズ 決戦！ 九龍城砦】
香港への不法移民チャン・ロッグワンはやくざに追われ、高層スラム街九龍城塞に逃げ込む。九龍城砦のリーダー、ロン・ギュンフォンに救われ仲間もできるが、本人も知らない出生の秘密から再び黒社会に狙われる身となり……。
1980年代半ばの九龍城砦を舞台にしたアクション映画。コミックが原作だそう。今は公園になっているという九龍城砦を大規模なセットにCGも交えて再現。これがすごい出来栄えで、増築改築を重ねて、ほとんど日も差さない、薄汚れた細い路地や屋根の庇に電線やパイプがこれでもかと張り巡らされた世界は、まさに魔窟、異世界に入り込んだよう。その狭隘で立体的な空間を縦横無尽に使ったアクションは『るろうに剣心』などの谷垣健二が担当。気功で体を固くして刃物を防ぐなどマンガ的な表現も取り入れつつ、スピード感あっても動きがわかる大迫力のアクションが展開されて、お腹いっぱいになります。アクションばかりというわけではなく、因果応報の人情話に青春（でも色恋はない）、そして九龍城砦で助け合って暮らす人々の生活の様子がきめ細やかに描かれて、一つの時代の記録としても見ることのできる作品。香港映画最大のヒットというのもわかります。大兄貴役でサモ・ハンも登場。ソイ・チェン監督。
１月20日（月）【敵】
元大学教授の渡辺は妻に先立たれ都内の古い家で悠々自適の生活だが、貯金が底を突いたら自殺すると語る。教え子の女性編集者や行きつけのバーに出入りする女子大生に妄想を抱いたりもする。やがて正体不明の「敵」が来るというメールが届き……。
筒井康隆の同題小説が原作ですが未読。前半は渡辺の淡々とした、だがそれなりに満たされた生活の描写が続く。モノクロの画面の自炊の料理がおいしそう、女性陣も魅力的だが、次第に渡辺の妄想が入り交じり、どこまでが現実でどこからが妄想なのか、混濁し始める。連載の打ち切りや健康の不安、（死んだ妻をも含めた）女性との関係の破綻、そして正体不明の「敵」。人生をきれいに終わらせようとしていた渡辺は混乱し、妄想は肥大して現実を侵食していく。侵入者を追っていくと物置の中でその家で暮らしていた祖父の写真を見つけ、あれは祖父だったのだと納得する場面が印象的。混沌とした妄想の果てに「春が来ればみんな帰ってくる」という言葉を残し、春には渡辺の葬儀のシーンになる。遺言で家を相続した若者が双眼鏡をのぞくと二階の部屋に渡辺の姿。渡辺は死んで家という安寧の場所と一体化したと取ることもできる。「敵」は彼の生活を脅かすあらゆる不安の象徴なのだろうが、「敵」から逃れるためには、あの世に行くしかないのだろうかね。すごい映画だと思うけれど、苦いなあ。主演の長塚京三が素晴らしい。『火口のふたり』の滝内公美、河合優美や黒沢あすかの女優陣もいいな。『美しい星』『騙し絵の牙』などの吉田大八監督。
１月20日（月）【海底軍艦】
一万二千年の昔に海底に沈んだムウ帝国が地上の支配権を求めて動き出した。神宮寺大佐が密かに建造しているという海底軍艦の助力を求めてカメラマンの旗中、神宮寺の娘、元上官らは、南洋の孤島に向かうが……。
午前十時の映画祭で二十七年ぶりの再見。スクリーンで見るのは初めてかも知れない。伊福部昭のあの音楽にのって、轟天号が試運転に発進するシーンには鳥肌が立つようなカッコ良さ。到底飛びそうにない轟天号が宙に浮かび上がる場面は一種サイキックな魅力を放っております。科学考証とかそういうのを超越した視覚芸術の勝利。そして、もちろん小林哲子演ずるムウ帝国皇帝の素晴らしさ。美しく傲慢、誇り高くもの悲しいその姿は東宝特撮ヒロインの頂点。台詞は少ないけれど「マンダの生け贄にせよ」「ムウ帝国は必ず勝つ。世界を支配するのはムウ帝国じゃ」って、もうこれだけで胸いっぱい（笑）。物語の方も戦後二十年近くを経ても大日本帝国の幻に固執する神宮寺と世界を支配した遠い過去を蘇らせようとするムウ帝国を重ね合わせて、その愚かしさと時代錯誤を糾弾するいい話。旗中が神宮寺に「あなたは戦争キチガイだ」と詰め寄るシーンなど、見せてやりたい大馬鹿者が、今のこの世にも溢れているというのが、悲しいね。それにしても日本兵の生き残りが南の島で戦争を続けているって、横井さんや小野田さんを先取りする話だな。当時からそういう噂はあったんだろうなあ。ブラジルの勝ち組の話も連想させて、まだ戦争の記憶が生きていた1963年の作品。円谷英二特技監督、本多猪四郎監督。
１月17日（金）【いちご白書】(TV)
大学のボート部員のサイモンは好奇心から大学内に軍施設を作ることに抗議して学長室を占拠している学生運動に入り込む。そこで知りあったリンダに惹かれたサイモンは次第に運動に本気になっていくが……。
「いちご白書をもう一度」で歌われた映画。1968年の実話が原作ということで、過剰な説明を省いたドキュメンタリー・タッチで、短めのショットを積み重ねていく映像は美しく魅力的。サイモンと共に学生運動に入り込んでいくような感覚。初めは好奇心とリンダへの気持ちで参加していたサイモンが本気になっていくきっかけは理不尽な暴力。彼らが擁護しているはずの黒人のチンピラに大切な８ミリカメラを壊され、体制側から運動に転じたボート部の友人は体制側学生に重傷を負わされる。だが、そこで運動が暴力に走るわけではない。あくまでも非暴力を貫き大学の占拠を続けるのだが、体制側は警察と州兵を動員して学生を排除する。催涙ガスをまきちらし、警棒で容赦なく学生を打ち据える描写が延々と続き、目を覆いたくなる。平和的でまっとうな要求が一ミリも省みられることなく、体制側の非道な暴力で踏みにじられていく様を映画は映し続けて終わる。『いちご白書をもう一度』は過ぎ去った時代を感傷的に歌うが、この映画自体はまったく感傷的なものではない。体制側の暴力はもちろん、日常の中の暴力、また無関心や見ているだけという暴力をも告発する作品。それは今も続いている。リンダのキム・ダービーちゃんはキュートです。『地下室の魔物』にも出てたのね。主題歌はジョニ・ミッチェルの作、CSN&Yやニール・ヤングらも流れます。1970年、スチュアート・ハグマン監督。
１月16日（木）【黒線地帯】(DVD)
トップ屋の町田は麻薬で女を縛り売春させる組織を追うが、眠らされて目覚めると全裸女性死体と一緒。殺人犯の嫌疑をかけられた町田は、真犯人を探し求める内、麻耶という妖艶な女性と出会い……。
『網走番外地』や東映異常性愛路線で有名な石井輝男監督新東宝時代の代表作。モノクロの画面に斬新なカメラワークが光る和製フィルム・ノワール。主演は天地茂で後年ほどの冷徹な雰囲気はないものの、十分ハードボイルド。まあ、けっこう女に騙されたりしてますが（笑）。ヒロイン麻耶は三原葉子で、下着姿で豊満な肢体を惜しまず披露。こちらも裏社会で懸命に生きるしたたかな女性を好演。話は新宿から始まり、後半横浜に移るあたりから、ちょっとガチャガチャしてますが、ラストの列車や船のアクション・シーンはなかなかの迫力です。当時の東京・横浜の夜の世界が見られるのも魅力。女性は（水兵の）セーラー服、ボーイを特攻兵と呼び軍艦マーチが鳴り響く海軍キャバレーって、何かすごいなあ。ヤードが広がる横浜赤煉瓦倉庫も見ることができます。三ツ矢歌子演ずる女子高生がいきなり町田の車に乗り込んで「マンハント」しちゃうってものびっくり。いい時代だった？1960年の作品。
１月15日（水）【私にふさわしいホテル】
パンクなのんちゃんにもう一度会いたくて再見（笑）。二度目だと笑いどころがわかっているので、なお楽しい。無茶苦茶強引な作戦もよくわかります。文学賞を取っても、なお悔しさがおさまらないと叫ぶ主人公はもうのん本人。Punks Not Dead ! こうありたいものだなあ。
１月９日（木）【カルキ 2898-AD】
世界最後の都市カーシーは巨大な空中要塞コンプレックスに支配されていた。支配者スプリームは女性を妊娠させ胎児から体液を抽出する実験を続ける。賞金稼ぎのバイラヴァは脱走した女性を追うが……。
『バーフバリ』のブラバース主演のSFアクション。冒頭の神々の戦いからいきなり六千年後に飛んでびっくり。『スター・ウォーズ』『ブレードランナー』風の未来世界とインド神話を強引に接合する力技、映像的にはハリウッド映画と比べてもまったく遜色ない出来栄えですが、イマイチ、テンポが悪くて冗長感あり、アクションもなんとなくもっさり。主人公の覚醒が168分ある最後の最後というのも、何かすごいなあ（笑）。例によって三時間近くあるのに最後は「続く」。うーん、このペースだと三部作ぐらいかなあ。ナーグ・アシュウィン監督。
１月９日（木）【妖星ゴラス】
太陽系に黒色矮星ゴラスが接近、観測を試みた土星探査船隼号は重力に引かれて遭難。地球への衝突を避けるため、南極に巨大なジェットパイプを設置して、地球の軌道を変える計画が始まるが……。
午前十時の映画祭で三十一年ぶりの再見。劇場で見るのは多分初めて。舞台は1979年〜82年なんだけど、富士山麓には宇宙港があり、太陽系には宇宙船が飛び交っている。1962年の作品だけど、二十年後の未来にそうした世界を設定できた前向きなエネルギーに驚く。未来は明るく希望に満ちていたんだなあ。同時に隼号の最後は「万歳突撃」だし、挿入歌「俺ら宇宙のパイロット」や街の風俗は公開当時の雰囲気というのも、おもしろい。戦後の、高度成長時代の延長上の未来なんだな。南極にジェットパイプを建設して地球軌道を動かすというのはスケールが大きいとかいうレベルを超えた誇大妄想的なアイデアで今見ても驚くばかり。地球の危機を救うのが国連に集った世界中の科学者集団だという理想主義にも感動する。宇宙シーンのリアリズム、南極基地の壮大なスケール、大洪水の迫力と、特撮はすべてをミニチュアで作りきってしまおうとする執念を感じるすごさ。映像も話も登場人物たちも元気だ。水没した東京を目にしても「作り直せばいい」と言い切ってしまうエネルギーに圧倒される。色っぽい水野久美に清楚な白川由美と女優陣も魅力的。この話を九十分を切る尺に収める技もすごいなあ。円谷英二特技監督、本多猪四郎監督。
１月８日（水）【私にふさわしいホテル】
小説家の中島加代子は新人賞をとるも文壇の大御所東十条に酷評され、以来鳴かず飛ばずに。同じホテルに東十条が宿泊しているのを知った加代子は酒に酔わせて原稿を落とさせ、自作を文芸誌に掲載させるが……。
のん主演の文壇コメディー。同題小説の映画化だけど未読。加代子は東十条や文壇への恨み辛みで大暴走。強引なというかほとんど悪辣な（笑）やり口で東十条を攻撃・翻弄、別名で再デヴューしてのし上がっていく。これをのんが楽しそうに怪演。どこまで原作に忠実なのかは知らないけれど、怒りのエネルギーを爆発させる様は当て書きとしか思えない。パンクだなあ。『さかなのこ』もそうだったけど、のん以外の人では成立しない「のん映画」。もはや特殊大スターの趣。さり気なく共謀する大学の先輩の編集者とのやりとりや次第に加代子の毒気に当てられていく東十条（滝藤賢一）との関係も楽しい。盟友？橋本愛も性別不明のカリスマ書店員で登場。舞台は山の上ホテル。休館前の貴重な姿が拝めます。『20世紀少年』などの堤幸彦監督。
１月８日（水）【ビーキーパー】
秘密組織ビーキーパーの元工作員で養蜂家のクレイは、ネット詐欺で全財産を失い自殺した家主の老婦人の復讐を始める。手始めに拠点を爆破炎上させるが、詐欺組織の裏には大きな力が動いていた……。
ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画。無駄なくパキパキと話が進み、ほぼ無敵のクレイのアクションも楽しい。敵のスケールは大きくなっても、映画全体はコンパクトにまとまっていて、ほどほどの荒唐無稽さ（笑）に収めているのが、いいな。どこにも属さないビーキーパーの使命は社会を守ることだというストレートさ、場合によっては「女王蜂」もすげ替えるっていうんだけど、まるで勧善懲悪の時代劇みたい。『クレイヴン』もちょっとそういう感じだったけど、時代は巡って悩まないヒーローが求められているのかしら。そう考えると怖いけど、カチッとまとまった娯楽作。『フューリー』や『スーサイド・スクワッド』のデヴィッド・エアー監督。
１月６日（月）【サイダーのように言葉が湧き上がる】(TV)
夏休み、俳句好きの少年チェリーはぎっくり腰の母の代理でショッピング・モールの通所老人施設でアルバイト。カワイイものの配信で人気の少女スマイルと出会い、施設に通う老人のレコード捜しを手伝うが……。
鈴木英人やわたせせいぞうを思わせるポップでカラフルな画調に目を奪われる。主な舞台は田んぼの中にたつショッピング・モール。これを内外ともにキラキラした夢の世界のように美しく描く。街灯が点る夕景はことに美麗。大きな音や会話が苦手でヘッドホンを手放さない少年と飛び出し気味の前歯が気になってマスクを外せない少女とのボーイ・ミーツ・ガールを実際に高校生らが作った俳句を随所に交えてドリーミーに描いて秀逸。レコード捜しの件はやや無理ある気もするけど、ハッピーエンドでまあ、いいかという気になる。牛尾憲輔によるミニマルな音楽、大貫妙子の挿入歌もいいな。2021年、イシグロキョウヘイ監督。
１月５日（日）【宇宙戦争（1953）】(DVD)
カリフォルニアの田舎町に宇宙からの謎の物体が落下、フォレスター博士らが調査に乗り出す。隕石からは円盤状の戦闘機械が出現し、出動した軍隊も怪光線でたちまち撃破される。物体は世界中に落下し……。
言わずと知れたジョージ・パル製作のH.G.ウェルズの古典SFの映画化。舞台はアメリカになっていますが、基本的筋立ては同じ。宇宙船が放射能を発していたり、米軍が原爆で攻撃するなど、50年代らしさも。三本足のウォー・マシンはさすがに映像化が難しかったのか、三本の磁力線で浮遊する蝙蝠に似た円盤状のものになっていますが、デザイン自体は流麗、火花と光学合成を使った破壊光線の描写も秀逸。『地球防衛軍』等の東宝特撮映画にも多大な影響を与えていますね。避難する住民が混乱して暴徒化するなどの描写もリアル。破壊された農家で登場する火星人の恐怖描写も上出来です。テレビカメラのRGBを模した目というのもおもしろい。原爆も効果がなく、弱点を研究するための血液も暴徒にダメにされ、最後は教会で祈るのみという絶望的状況もちゃんと描かれるので、ラストの皮肉なオチも効いています。なお、原爆攻撃の描写は『オッペンハイマー』の核実験シーンを思わせるもので、当時としてはかなりのリアリズムなのでしょうが、なんかやっぱり甘いよなあ。1953年、バイロン・ハスキン監督。
１月４日（土）【ONI 神々山のおなり】（TV）
天狗や河童の住む山で雷神と暮らす少女おなり。学校では鬼が襲来するという鬼月にそなえて、クシと呼ばれる各々の不思議な力を磨く練習が始まる。だが、おなりにはクシが芽ばえる気配がなく……。
2022年にネットフリックスで配信された3DCGアニメーション。一話四十五分の四話構成。実写の人形アニメかと見紛うようなキャラクターと精緻に作り込まれたセット（背景）が非常に美しく、見惚れてしまう。屋久島へロケに行ったり、一度セットとして作ったものを3DCGに置き換えたりと、手の込んだことをしているのが結果に表れている。キャラクターの動きもストップモーション風というかリミテッド・アニメ風というか、微妙にカクカクしている凝りよう。ピクサーにいた日本人＆日系人？が立ち上げたスタジオの作品だけど、国内で作られており、日本でもこのレベルのものができるのかと驚き。話の方は後半失速気味で、人間＝鬼というところをおなりのアイデンティティーの話に逃げずに、ちゃんと突っ込んで描いて欲しかったけれど、この素晴らしい映像を見られただけで満足かな。堤大介監督。
