２月26日（水）【恐怖の夜】(DVD)
　親友の二人の老人が若返りの水を発見、若くして亡くなった片方の男の婚約者を蘇らせるが……（ハイデッガー博士の実験）。学生は下宿の窓から見た花園の美女に恋をするが、彼女とその父は彼を拒み……（ラパチーニの娘）。妹の住む屋敷に財産目当てに戻った男と妻だが、妻は不思議な幻視を体験し……（七破風の屋敷）。
　ナサニエル・ホーソーン原作の三話オムニバス。ヴィンセント・プライスが全編で主演。「ハイデッガー博士の実験」は、予想通りの展開ではあるけれど、小気味よくカチッとまとまった話。若返りの特撮は古典的なオーヴァーラップですが、老けメイクがいい感じなので自然に見えます。「ラパチーニの娘」は有名な怪奇小説の古典ですが、ベアトリス役のジョイス・テイラーが美しく、かつ好演で楽しめました。「七破風の屋敷」は、原作が長編とのことで、ちょいと忙しい展開ですが、正面からゴシック・ホラーを描いていて、これも好感が持てます。ヴィンセント・プライスはどの話でも、例のちょっと過剰な感じもある演技で存在感抜群。高飛車で嫌味だけど悩める男がよく似合っています。長身でスタイルもよいので、嫌な男だけどカッコいい（笑）。おそらくは低予算だろうけど、ダニエル・ハラーもかくやという美術が素晴らしく、ロジャー・コーマンのAIP作品を思わせる秀逸な古典怪奇映画です。1963年、シドニー・サルコウ監督。

２月25日（火）【ゆきてかへらぬ】
　若き詩人中原中也は三つ年上の女優長谷川泰子と暮らし始める。京都から東京に出た二人は、評論家の小林秀雄と親交を結ぶが、泰子は小林の元へ去る。だが、泰子は次第に精神に変調を来し……。
　実話を元に『ツィゴイネルワイゼン』などの田中陽造の脚本を『探偵物語』『ヴィヨンの妻　〜桜桃とタンポポ〜』などの根岸吉太郎監督で映画化。冒頭の雨に濡れた瓦屋根と石畳、赤い傘の美しさに目を奪われます。その後も大正時代の都市風景や室内を魅惑的に描いた美術は素晴らしい仕事。三人のねじれているような真っ直ぐなような、気取っているような不器用なような関係は魅力的ではありますが、うーん、広瀬すずがなあ（笑）。中也から送られた時計の音に狂乱する場面など、熱演ではあるんだけど、なぜか物足りなく感じるのは、単にあまり好みじゃないからなのか、芝居のせいなのか。濡れ場で脱がないのもなあ。中原中也も小林秀雄も本質的には女は必要なく、泰子も男はいらなかったのかなあ、などとも思いました。なお、中原中也の出身地の湯田温泉には行ったことがあります。生家跡の記念館にも行ったなあ。

２月20日（木）【ファイアーブランド　ヘンリー８世最後の妻】
　イギリス王ヘンリー８世の六番目の妻となったキャサリンは進歩主義の才女。宗教改革を訴える幼なじみのアンの身を案じるが、自身の身にも異端、不義の疑いという危機が迫る。王の体調は日に日に悪化し……。
　史実を元にした歴史劇。舞台はほとんど城の中で、チャンバラはありません。望まぬ結婚をするも、才覚に溢れたキャサリンが、男性原理と宗教的権威主義の支配する中、いかに自分の意志を貫き、危機を乗り越えるかというサスペンス。当時は聖書も祈祷もラテン語で庶民は理解できなかったというのは驚き。理解できない言葉を唱えて神を崇めよって、そりゃあ、無茶苦茶だなあ。ヘンリー８世は暴君ではあるけれど暗愚ではなく、司教は陰険で、味方は侍女と改革派の貴族だけれど、権力の脅しの前には心もとない。強い意志は持つけれど、一歩間違えれば死が待っているキャサリンを『エクス・マキナ』などのアリシア・ビカンダーが抑えた熱演。ヘンリー８世のジュード・ロウも、弱さも持つ王を好演。見応えあります。史実を越えたラストも見物。『鎌倉殿の13人』みたい？　カリン・アイヌーズ監督。

２月17日（月）【キャプテン・アメリカ　ブレイブ・ニュー・ワールド】
　ハルクを追っていたロスが大統領となり、新キャプテン・アメリカことサム・ウィルソンに新生アベンジャーズの結成を依頼。だが、就任式でかつての超人兵士イザイアがロスを暗殺しようとし、サムはイザイアの無実を晴らそうとするが……。
　今回はマルチバースは出てこなくて一安心（笑）ですが、いろいろと予備知識が必要な映画。ロス？　ああ、そんな人いたなあ。髭面の見舞客はウィンター・ソルジャーか。あれ、先代キャプテン・アメリカってどうなったんだっけ？　洋上の巨大な石人はちょっと前のイマイチなので見たなあ……というわけで、よほど熱心なアメコミ映画ファンでないと感情移入しづらいんじゃないかねえ。それなりの出来ではありますが、最後のポトマック川の桜並木での対決は、ちとCGが安い気がします。桜が妙にピンクだしなあ。最大の見どころ？は日本の首相がアメリカの大統領と対等にやりあうというところ（笑）。品性下劣なトランプにおべっか使う石破の姿を見なくとも、こんなこと絶対にありえないと思うけれど、作り手はどういうつもりなのか、まったく想像できないなあ（笑）。もはや大統領が赤ハルクになっても、現実の方がはるかに（悪い意味で）驚くべき事態になっている。何だよ、これ。ジュリアス・オナー監督。

２月13日（木）【ノン子36歳（家事手伝い）】(DVD)
　売れないタレントのノン子は実家に出戻りの36歳。実家は神社でお祭りが近い。成り行きで、露店を出したいとやってきた青年まさるの世話を焼くが、東京から元夫が来て、タレント活動を再開しようと言い出し……。
　ノン子は終始不機嫌に煙草をふかし、酔っぱらっては自転車でゴミ箱や看板を蹴散らす。坂井真紀が人生うまくいかない、でもどこかで夢をみていたいノン子を好演。世界に出たいと言いつつ、露店でひよこを売ろうとする謎の青年まさる（星野源！）もいかにもインチキくさいマネージャーの元夫（鶴見辰吾）も、みんなどこか浮世離れしたダメ人間で、共感できます（笑）。セックス・シーンも美しくもカッコよくもなくて、ぐだぐだだったりギクシャクしたりするけど、生々しくていいな。旅館の机で局部を隠すカメラワークは芸術的（笑）。世の中から微妙にはみ出した人々の姿を暖かく描いております。お花畑でひよこを追いかけるというロマンティックかつコミカルなシーンもあり、まさかのチェーンソーで大暴走シーンもありで、楽しいです。役に立たないオスのひよこが野良で成長した姿に、一滴の希望があるなあ。『私の男』などの熊切和嘉監督、2008年の作品。主なロケ地の寄居町は昔、行ったことがあります。いいところです。

２月11日（火）【がんばれ！ベアーズ】(TV)
　元マイナーリーグの投手バターメーカーはリトルリーグの弱小チームの監督になるが、大酒飲みの彼はろくな指導もせず、子どもたちはケンカばかりで初戦大敗。バターメーカーは元妻の連れ子アマンダをチームに入れようとするが……。
　テータム・オニール目当てで見てみましたが、彼女が主役というわけでもなく、アル中ダメ男と子どもたちの集団劇。ウォルター・マッソー演ずるバターメーカーは缶ビールにウィスキーを入れて飲み、試合中でもグビグビ、煙草もスパスパと豪快（笑）。子どもたちも生意気で一筋縄では行かない。テータム・オニールのアマンダは観光客にスターの家の地図を売って金儲けのすれっからし。バイクを乗り回し煙草をくわえた不良少年（小学生？）もメンバーに加わって、それでも勝利を目指すけど、アマンダはいきなりスピットボール投げるし、デッドボール狙いでわざと当たりに行ったり、何でもあり（笑）。“純粋さ”が求められる日本の高校野球とは別世界で楽しい。勝ちにこだわって、相手チームの監督が指示に従わない息子の投手を殴っちゃったり、バターメーカーも暴言を吐いたりという場面もあるけれど、子どもたちは服従しない。醒めた目で大人を見据える無言の抵抗に、大人は後退るのだ。いい映画だな。1976年、マイケル・リッチー監督。

２月７日（金）【妖僧】(DVD)
　石窟で十年の修業を終え不思議な法力を得た僧侶は、女帝の足の病を法力で治し、二人は深い仲に。新たに道鏡と名乗り宮中で政の改革を始めるが、これを良く思わない者たちが刺客を差し向ける……。
　奈良時代に権勢を振るった僧侶道鏡を描いた映画ですが、史実とも俗説とも距離を置いて、純粋に仏の道を究めようとする男が愛と謀略の中で破滅する姿を美しく描いた作品になっております。道鏡役は市川雷蔵、超然とした姿の中に苦悩する様を滲ませてさすが。女帝は藤由紀子でたいへん美しい。万里昌代もちょっと悪い女役で出ております。謀反を起す太政大臣は城健三郎時代の若山富三郎ですが、途中退場。冒頭では法力で鼠を白骨化させて動かす（モデル・アニメーション！）場面などもありますが、後半は戒律を破って女帝と通じたために法力を失って苦しむ姿が続き、ちょいと地味め。愚直に民のための政を行おうとする道鏡やその改革に賛同する若い官吏たちの姿は、今見てもはっとするものがあります。こういう真っ直ぐさが大事だな。音楽は伊福部昭で後にゴジラ映画でも使われたと思しきメロディーも出てきます。1963年、戦前からの巨匠衣笠貞之助監督、最後から二番目の作品。

２月６日（木）【怪獣ヤロウ！】
　岐阜県関市の冴えない観光課職員山田らは市長からご当地映画の制作を命じられる。市の伝統を紹介する映画のはずが不測の事態が起き、怪獣マニアだった山田は怪獣映画として撮り直す決意をするが……。
　ご当地映画作りをご当地映画として撮るというメタ？ご当地映画。しかもアナログ特撮へのオマージュを込めた怪獣映画というよくわからない映画ですが、これがちゃんとご当地映画としても成立しているという怪作、いや快作。超ワンマン市長（清水ミチコ）に市庁舎破壊、シャッター商店街もちゃんと出てくるし、この企画を通した関市、すごいなあ（笑）。特撮シーンもそれなりの出来、伝説の怪獣映画監督として本多英二なる人もでてきて（麿赤児）、山田が失っていた怪獣映画への思いを蘇らせるあたりは、安い描写ではあるけれど、いいな。これくらいやれば、ご当地映画も無駄ではないか。『石岡タロー』ではダメだけど（笑）。関市は刃物や鵜飼いで有名な街、行ってみたいという気持ちになりました。八木順一朗監督。