12月11日（木）【ペリリュー　−楽園のゲルニカ−】
　漫画家志望の田丸はパラオ諸島のペリリュー島に配属される。米軍の上陸作戦が始まり、激しい戦闘の末、島は米軍の手に。田丸ら生き残りの兵士たちは、米軍基地から食料を盗み出そうとするが……。
　同題の漫画が原作ですが、未読。原作通りこのアニメーション映画も、登場人物たちは三頭身の“カワイイ”姿ですが、描写は血みどろ、手足が千切れ飛ぶ人体破壊に、動けない傷病兵を次々と刺殺するなど、戦場の狂気の現実を描こうとしております。背景や兵器類は3DCGも交えた緻密な描写で、リアリズム指向。美しい自然描写も含めて、戦争の凄惨さと不条理を描くことに成功しております。米軍の物資を盗んで生き延びるという描写は『木の上の軍隊』や『宝島』でも描かれていたけれど、いかにバカげた戦争であったかということが、実感できますね。米軍基地で上映されていた『キング・コング』（1933）を盗み見るというシーンも象徴的。三頭身の人物は、残酷な戦争ものへの見る者の敷居を下げるという意味では成功なのかな。ただ、ちょっと美談にし過ぎで、もっと生々しいものを描いてほしいという気はするけれど。なお、戦地の日本兵の悲惨さは描かれてはいるけれど、どうしてそうなったのかということ、侵略戦争を起こした日本の加害責任については何も描かれていなくて、そこは残念。そこをちゃんと考えないと、また同じことが起きるね。久慈悟郎監督。

12月９日（火）【ウルトラマン　第二十話 恐怖のルート87】（TV）
　伊豆大室山の異変の報せに科特隊は現地に。本部のアキコ隊員のもとへ謎の少年が訪れ、高原竜ヒドラが暴れだすと予言する。少年は大室山公園の石像ヒドラの考案者だったが、ひき逃げで亡くなっており……。
　当時、深刻な社会問題になっていた交通事故を題材にした悲しいファンタジー。ウルトラマンはヒドラの背中に少年の亡霊を見て、スペシウム光線を発射しない。ウルトラマンのスーツアクター古谷徹からの怪獣を倒さない話を、という要望に沿ったものだそう。当初から一方的な“力の正義”に作り手が疑問を抱いていたことの証ですね。ヒドラは実在する伊豆シャボテン公園の石像からのデザインですが、ちょっと鶏っぽくて、石像の方がカッコいいかな（笑）。きれいな円錐形の大室山が怪光を発してヒドラが出現するシーンはなかなかの雰囲気。金城哲夫脚本、樋口祐三監督。

12月４日（木）【WEAPONS　ウェポンズ】
　田舎町の小学校で、クラスの子どもが一人を除いてすべて同時刻に失踪するという事件が起こる。混乱の中、担任のジャスティンは残った生徒アレックスを探ろうとする。捜査に不満を持つ保護者のアーチャー、ジャスティンの不倫相手の警察官ポールも事件に関わっていくが……。
　複数の人物の視点から、時間軸もずらしながら事件に迫る中盤までは、非常におもしろい。登場人物たちも酒飲みで前のめり気味のジャスティン、アル中治療中で恐妻家のポール、強引さも目立つアーチャーなど、欠点もある様をぐだぐたのユーモアも交えて描いて、楽しい。中盤まで具体的な恐怖描写も押さえて、事件の不可解さと悪夢、それにコミュニケーションの不全を持って、じわじわと恐怖を盛り上げて良い出来。後半は恐怖の対称が明確に登場するのだけれど、形としてははっきりしてもその内実はよくわからない。表面的な形はむしろ古典的な魔術的なものだけれど、即物的な描写に比して、その目的は今一つはっきりとはしない。はっきりとしないまま、即物的な破壊によって物語は終わる。普通の人間が誰しも“兵器”になりうるという現在の社会を描いているようにもとれるけれど、断言はできない。もやもやとした恐ろしさと奇妙なグロテスクさが残る秀作。ザック・クレッガー監督。

12月３日（水）【果てしなきスカーレット】
　十六世紀デンマークの王女スカーレットは叔父クローディアスに父王を殺され、復讐を誓うも自らも殺されてしまう。死者の国で目覚めた彼女は仇もそこにいることを知り、復讐に向かうが、現代日本から来た看護師の青年聖と出会い……。
　復讐の連鎖を止める、というのがテーマのファンタジー。それ自体はまあ、わかるし、平和を希求することを訴えるというのは、このろくでもない時代にあって、大切なことだとは思いますが、どうも話の展開や舞台設定の詰めが甘くて、何だかなあ。聖は敵味方関係なく救護に懸命なんだけど、なぜか途中で簡単に弓矢で敵を射殺しちゃう。そこに葛藤は描かれない。なんで、現代日本の青年が乗馬や弓矢ができるのかも謎（笑）。死者の国は時代や地域を問わず、死者が集まってくるらしいけど、現代の人間は聖しかいないように見える。街があって、生活があるらしいけど、ここっていわゆる煉獄で、ずっといる場所じゃないんじゃないのかなあ。クローディアスの城の前の難民キャンプ？なんて地平線まで続いているけど、不思議。復讐の連鎖を止める自分を“赦す”スカーレットの言葉など、いっさい意に介さない極悪人のクローディアスには“天罰”が下る。最後は神様が何とかしてくれるって？　それじゃあ、いつまでたっても平和は訪れないと思うけどなあ。殺すかどうかは別として、ちゃんと人間の手で社会的制裁を加えなければ駄目だろうよ。『サマーウォーズ』の権威に頼る姿勢がすごく嫌で、あれ以来細田守の作品は見ていなかったけれど、結局やってること同じですね（笑）。なお、台詞でべらべらとテーマを説明するのはやめてください。『鬼滅の刃』じゃあるまいし（笑）。
　3DCGで描かれる登場人物たちは、ごく普通の日本式アニメのそれで、特段の魅力的な表現はない。人間はともかく、馬の動きはチープ。死者の国の描写は変化に乏しく、クローディアスの城や唐突に起こる噴火は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの劣化版のよう。不入りで大変なようですが、仕方ないか。

12月２日（火）【ウルトラマン　第十九話 悪魔はふたたび】（TV）
　工事現場から青い液体が入ったカプセルが発見される。超古代人が二匹の怪獣を封じ込めたものと判明するが、もう一つのカプセルから赤い怪獣バニラが復活、青い液体からは青い怪獣アボラスが出現し……。
　二匹の怪獣が激突する娯楽編。子どもの頃から好きだったなあ。改めて見ると、カプセルの発見から古代文字の解読、二大怪獣の出現と死闘からウルトラマンとの戦いまで、よくこの尺で収めたなあと感心しました。ミステリアスな物語に都市破壊、決戦はオリンピックの記憶も新しい国立競技場と豪華。バニラはタツノオトシゴがモチーフらしいですが、下腹の突き出た異様なデザイン、アボラスは巨大な頭部でレッドキングの改造とは思わせない大胆なデザイン。火炎に溶解液という対称的な武器もいいな。スペシウム光線を何度浴びても反撃するアボラスのタフさは今見てもカッコいい。三億五千年前はご愛嬌。数字で書くと300005000年前ですが、誰も気付かなかったのか、ゆるくていい時代だなあ（笑）。山田正弘・南川竜脚本、野長瀬三摩地監督。