11月26日（水）【ウルトラマン　第十八話 遊星から来た兄弟】(TV)
　東京を放射能の霧が覆う。突如現れたザラブ星人は、自分は地球人の兄弟だと言い、霧を消して見せる。やがて、出現したウルトラマンが街を破壊し始め、ザラブ星人はウルトラマンこそが侵略者だと言い……。
　後年、シリーズの定番となるにせウルトラマンが初登場。目尻の切れ上がったシャープなデザインは、なかなかカッコいい。ザラブ星人はラゴンの改造とはまずわからない異様な姿。紫と緑が入り混じった体色がはっきりわかるのはリマスターの恩恵。肝心な時にベータカプセルを忘れてくるハヤタ隊員はお茶目ですが、それを少年隊員となったホシノ君が「大切なものでしょう」と届けてくれる、いかにも子ども向けの展開も楽しい。自ら作った宇宙語の翻訳機を律義に持ち歩いているザラブ星人というのも、妙にリアルでいいな。南川竜・金城哲夫脚本、野長瀬三摩地監督。

11月25日（火）【落下の王国】
　腕を骨折、入院中の少女アレクサンドリアは、撮影の事故で寝たきりのスタントマンのロイから六人の男たちが悪辣な総督に復讐する話を聞かされる。続きをせがむアレクサンドリアに、ロイは薬剤室からある薬を取ってくるように言うが……。
　『ザ・セル』などのターセム・シン監督2006年の作品の4Kリマスターによる再公開。初公開時は未見。冒頭のモノクロ場面から非常に丁寧に作られた美しい映像。いつとも、どことも知れない世界を舞台にしたロイの語る世界は、世界二十四カ国以上、十三の世界遺産で撮影とかで、基本CGなしの実写で色鮮やかで美しい幻想世界を作り出しております。石岡瑛子による風変わりでインパクトある衣裳も見物。ロイの物語は絶望の復讐譚から、現実世界でのアレクサンドリアの子どもらしい純粋さによって希望の灯を点すように変化し、それは同時にアレクサンドリアの父親と家の喪失という過去への癒やしともなる。想像力が人間を救うというテーマなんだろうけど、基本は美麗な映像世界を堪能する作品かしら。ただ、ちょいと世界遺産つまみ食いという気がしないでもない（笑）。『ザ・セル』も現代美術つまみ食いという感じがあったかな。

11月24日（月）【ブラックフォン２】
　殺人鬼グラバーを倒してから四年後、グウェンは自殺した母が自分に電話してくる夢を見る。ボーイフレンドのアーネストと兄フィンとともに夢に出てきた湖畔のキャンプ場に行くと、そこには黒電話の電話ボックスがあり……。
　グウェンの夢の場面は粒子の粗い画面で表現などしておりますが、恐怖シーンはストレートな描写。氷上の対決などあれこれ工夫してはいるけれど、前作のようなソリッドな感じはなくて、まあ、それなりの出来の普通の？ホラーですね。『十三日の金曜日』と『エルム街の悪夢』を足して二で割ったよう。中盤、それまでの謎を全部べらべらと台詞で説明してしまうシーンがあって、ちょいと興ざめ。じわじわと小出しにしてほしいなあ。映像で描いた夢の体験を、そのまんままた台詞でしゃべる場面もあって、脚本イマイチ。主要キャストは前作から続投。美少年メイソン・テムズは美青年に（笑）、かわいいお子様だったマデリーン・マックグロウはほどほどの美少女に成長していました。ボーイフレンドとキャンプ地に向かおうとするグウェンをお兄ちゃんとお父さんが二人で不機嫌な顔で見送るシーンが一番おもしろかったな。結局兄も父も来るんだけど（笑）。スコット・デリクソン監督。

11月20日（木）【モンテ・クリスト伯】
　船乗りエドモン・ダンテスは無実の罪で投獄される。獄中で知りあった牧師から様々なことを学び、十四年後についに脱獄。牧師から受け継いだ巨万の富を手に、モンテ・クリスト伯と名乗り、復讐を始める……。
　『三銃士』でも有名なアレクサンドル・デュマの高名な小説の映画化。『巌窟王』のタイトルで子ども向けの訳書を読んだようなおぼろな記憶がありますが、ちゃんと読んだことはなかったな。どこまで原作に忠実なのかはわかりませんが、パキパキとスピード感ある展開だけど、総集編的な雰囲気にはならずに、要所要所をしっかり描写して、見応えある三時間。地位と金と女への妬み嫉みからダンテスを陥れる男たちの醜悪さと、ダンテスだけでなくその影で犠牲になる女たちをもうまく描いて、非常に巧みな展開。ただ殺すだけではすまさない後半の復讐劇も謎解きにサスペンスもたっぷり、最後にはチャンバラも用意されて、王道を行く娯楽巨篇。後で調べると原作は文庫本で五〜七巻もあるのね。よく、まとめたなあと感服。謎めいた美女エデは、オトナになった『ヴィオレッタ』のアナマリア・バルトロメイアちゃんだったのね。レクサンドル・ド・ラ・パトリエール、マチュー・デラポルト監督。

11月19日（水）【フランケンシュタイン】
　四回目だけど、平日昼間にもかかわらず、かなりの入りでびっくり。二時間半あるけど、無駄な描写のない的確な構成も美しい。実験体や死体もグロテスクだけど美しい。要所要所で入る守護天使のアニメーション的な動きも魅力的。甲虫をイメージしたと思われるミア・ゴスの青や緑の衣裳も素敵。ヴィクターと別れる時だけ赤い衣裳なのは、血の出る決意なのね。結婚式の白いリボンで巻かれた腕は、包帯を巻かれた『フランケンシュタインの花嫁』のエルザ・ランチェスター演じる〝花嫁〟へのオマージュだね。全編、デル・トロの美意識で貫かれている美しい映画。詳しくはこちら。

11月18日（火）【北斎漫画】(DVD)
　下駄屋の二階に娘のお栄と居候の葛飾北斎は、ある日、お直という不思議な女と出会う。北斎は義父で御用鏡磨師の中島伊勢にお直を引き合わせるが、伊勢はお直の虜になってしまい……。
　公開当時、樋口可南子と田中裕子のヌード目当てに見た覚えがありますが、裸以外みんな忘れていました（笑）。北斎は緒形拳、下駄屋は後の鶴屋南北で西田敏行、二人とも若くてエネルギッシュ。お直という絵に描いたような魔性の女、ファム・ファタールを軸に、女に翻弄されながらも芸術に生きる、いや、翻弄されることも含めての芸術を生きる北斎の生涯を軽妙に描いております。樋口可南子は全編スレンダーな美しい裸身を惜しげもなく見せて、素晴らしい。鏡磨師の家では、無数の鏡に裸身が映る幻想的な姿。有名な蛸と海女の絵を実写で再現という大胆な挑戦も。蛸は操演ですが、なかなか自然な動きで白い裸体に絡みつき、口吸いもしたりの熱演（笑）。一部、本物の蛸を使った場面もあって、何だか樋口可南子も田中裕子も楽しそう。田中裕子はお栄の少女時代から十過ぎまでを演じていますが、無防備に乳房を晒す少女の姿の頃がとってもエロティック。死の床にある馬琴に乳房を吸わせる場面は、男たちの生涯をかけての大騒ぎも女の胸の中で見た夢なのかと思わせるものがあります。原作は矢代静一の同題戯曲。1981年、新藤兼人脚本・監督。

11月14日（金）【ウルトラマン　第十七話 無限へのパスポート】(TV)
　探検家のイエスタデイがバローン砂漠から奇妙な隕石を持ち帰るが、怪現象が続発。福井博士の元にあった対になるもう一つの隕石と一緒に科特隊本部に保管するも、隕石は合体、巨大な姿となり……。
　四次元怪獣ブルトン登場の回。おそらく当時はSFファン以外には縁の薄いものであったろう四次元というものを題材にし、時空間が歪んだ世界を映像で表現しようとした挑戦的な作品。歪んだ映像や上下反転、空へと続く無限の階段など、今見てもおもしろい。特に地上を走る戦闘機と空を飛ぶ戦車というシュールな映像は、勇ましい軍隊を茶化すようで秀逸。ブルトンの生物なのかどうかも定かでない形容しがたいデザインも素晴らしい。なんとなくベージュ色っぽいイメージがあったけど、レストアされた画面で見ると青や赤が鮮やかで、青赤二つの隕石の合体という設定がちゃんと活かされているのね。シュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンの名前を怪獣につけて、子ども向け番組でシュールな映像世界を展開する、その前衛ぶりに脱帽。ホシノ君を活躍？させて、ちゃんと子ども向けとしても成立させているというのも、すごいな。藤川桂介脚本、飯島俊宏監督。

11月11日（火）【フランケンシュタイン】
　三回目だけど、やはり素晴らしい。まだ上映しているので、ぜひ、映画館で。詳しくはこちら。ところで劇中で描かれる戦争ってどこの戦争なのだろう。1850年代ということはクリミア戦争なのだろうか。遠景に映る風車を付けた要塞のようなものも謎。気になるなあ。

11月10日（月）【旅と日々】
　李はつげ義春の『海辺の叙景』の映画脚本を書き、映画は完成するも恩師の死のショックもあり、旅に出る。雪深い温泉町でたどりついた宿の主は変わり者で、夜、雪の中を隣村へ錦鯉の池へ向かうが……。
　つげ義春の『海辺の叙景』と『ほんやら洞のベんさん』の映画化。どちらも読んでいるんだけど、後者は題名以外覚えていなかったな。映画内映画になっている『海辺の叙景』は河合優実が海で泳ぐ女の役で、絶妙に力の抜けた、しかしなぜか強烈に惹きつけられる存在感を示しております。ビキニ姿は眼福（笑）。李は『新聞記者』のシム・ウンギョン。こちらは微妙にたどたどしい日本語（演技？）が、なぜか（なぜだろう？）つげ作品の主人公の茫洋とした雰囲気にマッチして、こちらも不思議な存在感。作中で事物を言葉にすると、それに縛られてしまうといった台詞があるけれど、ベんさんの堤真一の誰だかわからないような演技とともに、この映画自体が言葉になることを拒否するかのような世界を描き出していて、素晴らしい。つげ作品の寂れたような宙に浮いたような奇妙なユーモアも非常にうまく表現。ロカルノ映画祭金豹賞というのもうなずける優れた作品。三宅唱監督。なお、この映画のロケ地は違いますが、『海辺の叙景』原作の舞台のモデルは千葉の大原。

11月10日（月）【プレデター　バッドランド】
　ヤウージャ族のデクは自分をかばった兄を父に殺され出奔。ゲンナ星のカリスクを狩って、強者の証をたてようとする。危険な怪生物ばかりの星で、上半身だけのアンドロイド・ティアと出会い、カリスクを求めて旅に出るが……。
　あまり思い入れのないこのシリーズですが、これは秀作。若い武骨者のデクと口八丁のティアの凸凹コンビの冒険は、難しいことを考えなければ楽しい（笑）。次々に現れる怪生物とそれらとの戦いも工夫が凝らされ飽きません。まあ、モンハンという感じもするけど（笑）。後半はアンドロイド軍団（笑）との戦いで、ここもティアの「感受性」と〝彼女〟を仲間として受け入れるデクを描いて、異文化交流アクション？として王道を行くおもしろさ。なお、人間は一人も出てきません。アンドロイドはウェイランド・ユタニ製で、『エイリアン2』を思わせる重機アクションのサービスも。ティアの上下分離アクション？は傑作。冷酷なお姉さんと二役のエル・ファニングちゃんも魅力的。本当の異星人を描くといった趣はないけれど、娯楽アクションSFとしては、近来稀に見る出来栄え。次回作を期待させるラストもいいな。デクのかあちゃん、怖そうだけど。『10 クローバーフィールド・レーン』のダン・トラクテンバーグ監督。

11月７日（金）【ウルトラマン　第十六話 科特隊宇宙へ】(TV)
　開発者の毛利博士自ら操縦する宇宙船おおとり号は金星へと向かうが、途中でバルタン星人と遭遇、毛利博士は意識を乗っ取られる。科特隊を宇宙へ誘き出した隙に、バルタン星人は地球攻撃を開始する……。
　バルタン星人の逆襲編。冒頭の宇宙船発射場のミニチュアが良い出来。おおとり号もなかなかリアル。ビートルで宇宙へ向かうためのハイドロジェネード・ロケットエンジン、新兵器マルス133、宇宙語翻訳機、バルタン星人の光波バリヤーやスペルゲン反射光、そしてウルトラマンの八つ裂き光輪にテレポーテーションとSF的ガジェットがたくさん出てきて、そういう意味では楽しい話。後半、地球での戦いがバルタン星人一体倒して終わりだったりして、ちょっと尻すぼみですが。あれは“集合体”だったの？　最後に出てくる岩本博士のフェニックス号がジューサー・ミキサーみたいなシュールなデザインなのは、おおとり号との対比だからなのか、それとも何かの流用？　バルタン星人は新造の着ぐるみで、初代よりずっと細身。こちらの方がデザイン画には近いらしいですね。千束北男脚本、飯島俊宏監督。

11月７日（金）【ピーター・カッシングのグール　ブラッディ　ドクター・ローレンスの悲劇】(DVD)
　パーティーを抜け出して車を飛ばしていたダフネとビリーはガス欠に。霧の中、近くの屋敷に迷い込んだダフネは主のローレンス博士に軟禁される。屋敷にはインド人のメイドに不気味な庭師、二階には何かが潜み……。
　ピーター・カッシング主演のホラー。やたら長い邦題ですが、原題は『The Ghoul』のようです。1920年代らしき冒頭のパーティーとその後の自動車競走がやけに長くて、なかなか怪異が起こらず、謎めいた屋敷に入り込んでも、まだ、なかなか……と思っていると、ダフネは殺されちゃってビックリ。屍食鬼は足や手がちょっと映るだけで姿を現さず、最後にやっと、と思ったら、うーむ（笑）。ピーター・カッシングはいつもと変らぬ端正な佇まいに堅実な演技で、特に今作では悲劇の主人公として感情を露にする場面も多くて、それは見応えあるんだけど、怪異の正体もインドで何があったのかも、いっさい明かされることはなく、映画は終わるのでした。『狼男と娼婦』と同じくジョン・エルダー脚本、フレディ・フランシス監督のタイバーン・フィルムの1974年の作品。

11月６日（木）【てっぺんの向こうにあなたがいる】
　1975年、多部純子らの女性登山隊は史上初の女性によるエベレスト登頂に成功。だが、成功の影で仲間たちは離れ、息子は反抗。月日は流れ、病に冒された純子は震災被害者の高校生のための富士登山を企画し……。
　実話を元にした映画化。主演は吉永小百合ですが、若い頃はのんが演じているので、見に行きました。エベレスト登山への準備から亡くなるまでを現在と過去を行き来する形で描いているんだけど、どうも総花的で焦点が絞れず。どうして彼女から仲間が離れていくのか、そこら辺の登山家のエゴや成功への妬みなどをもっとじっくり描いてほしかったな。そこが描けていないので、“スター”の子どもとして見られる息子の反抗心も娘の「お母さんを取り戻す」という心理も、通り一遍で終わっちゃう。後半の病気と闘いながらの富士登山企画の部分は、きわめて冗長な感動話で、忍耐力が試されます（笑）。のんちゃんはいつもののんちゃんでいいんだけど、彼女が登場すると“のんワールド”という別世界になってしまう。でも、それは吉永小百合も同じで、彼女のパートは“小百合ワールド”になってしまう。どちらも主演しかできない人ですね（笑）。それにしても、毎回思いますが（笑）、吉永小百合の芝居は何だかなあ。相手役の佐藤浩市が普通にうまいので、いっそう目立つ。死の床で夢現つで「バンザーイ」と叫ぶ場面など、感動どころか笑いそうになりました。『せかいのおきく』などの阪本順治監督。

11月５日（水）【フランケンシュタイン】
　素晴らしかったので、二回目。やはり、素晴らしい（笑）。自分が作り出したものに責任を持たないヴィクターの姿は、今ならAIなぞ作っている者たちに重なる姿。時代は変れど人間の愚かしさは不変だなあ。エリザベスが怪物と心を通わせる件など、後半、やや急ぎ足の気もあるけれど、冗長になるよりはこれくらいで留めておくのが賢明というもの。周囲の男たちに本当に理解されることはなかったエリザベスもまた“怪物”の一人。『ブライド』をのぞけば映画史上常に孤独だった怪物に、悲恋とはいえ愛を与えたのは、さすが『シェイプ・オブ・ウォーター』のデル・トロらしい、異形のものへの深い愛の現れ。それが現代のホラー・ヒロイン、ミア・ゴスというのも素敵だな。弟のウィリアムに言われるようにヴィクターもまた怪物、戦争成金で生に執着する出資者ハーランダーもまた怪物。無情の世界で怪物たちが繰り広げる悲劇を格調高く描いた傑作。もう一回見たいな。