８月８日【デモンズ95】(LD)
　何となく見返してみた。三度目だけど、やはりおもしろい。隠れたゾンビ映画の傑作。主人公は、不能だという噂を自ら広げて世間から孤立する孤独な墓守青年と、好きな女性に出会うと吐いてしまう知的障害者？の助手。殺しても殺しても次々によみがえってくるゾンビたちは、絶とうとしても絶てない彼らの人とのつながりへの苦い思いなのだろう。永遠に繰り返される報われない愛、断絶、ディスコミュニケーション。シニカルなユーモアの中の絶望感。ああ、泣きそう。

８月12日【花と蛇】(DVD)
　団鬼六原作、谷ナオミ主演の日活ロマンポルノ。私が高校生の頃はロマンポルノの最盛期で、通学途上にある立て看板を見ない振りしてみるのが楽しいというか苦しいというか。二十数年越しの願望（笑）を果たすべく、買ってみました。谷ナオミのなんと色っぽいことよ。ほんとにプロでございますね。もちろんSMポルノなんだけど、70年代という時代を反映して、アヴァンギャルドで屈折した雰囲気。浣腸されてウンコするシーンでは、何やらベトナム戦争を思い起こさせる爆撃か銃撃のような効果音。登場人物もマザコンのインポ青年に、オトナのおもちゃ屋をやっているその母親、女より薔薇の花が大事な社長に、奥様（谷ナオミ）を崇拝するメイドと、みんな屈折。さらにそれをコミカルに描いていて、これほんとに団鬼六の世界？という感じで、楽しい映画でした。マゾヒストに調教されたはずの谷ナオミが、実は男たちを本質的に支配しているという逆転のラストも皮肉でいいな。

８月13日【遺産相続】(TV)
　野球中継が終わった後、見るともなく、最後まで見てしまった。急死したマネキン会社社長の遺産相続をめぐる愛憎劇をコミカルに描く東映映画。社長の奥さんが実質会社を切り盛りしてたんだけど、この人、実は正妻でなくてお妾さん。正妻は意地でも離婚に応じず、ここまで来てて、お妾さんには相続権がない。双方の子どもも巻き込んで、愛と憎しみのどろどろというかドタバタ悲喜劇。いかにも東映だなあ、という感じのする庶民的というか品がないというか、そういう映画だけど、双方の女性の消すに消せない情念には、共感してしまいました。愛は恐い。なお、清水美沙扮するお妾さんの方の息子の嫁が、電動ノコギリ振り回して、マネキン工場でマネキンの首や胴を切りまくる狂乱シーンあり。途中で赤いペンキを浴びて、血みどろで電動ノコギリを振りかざすのは、もちろん『悪魔のいけにえ』（２か？）なんだけど、なんでこの映画でそこまでするのかは、謎です。さすが東映というべきか。

８月14日【ナチ女収容所 悪魔の生体実験】(DVD)
　これまた、思春期の楽しいトラウマ？となっているダイアン・ソーン主演の残酷SM映画。タイトルだけで、中身はすぐわかりますね。太ももウジ虫培養とか、死ぬまで鞭打ちとか、熱湯責めとか、密室で気圧をうんと下げちゃうとか、電流責めとか、あれこれ。おもしろいのは、主人公のサディストのイルサ（ずっとイルザだと思ってたらイルサだったんですね）が、精力絶倫の男（これがアメリカ人というのが笑わせる）の虜になっちゃって、「いじめて」とか言っちゃったりして、『花と蛇』とは正反対。シリーズでアラブ女収容所というのとシベリア女収容所というのもあるけど、みんな見たくなってしまった。どうしよう（笑）。

８月14日【亡霊怪描屋敷】(DVD)
　中川信夫監督の新東宝映画。妻の転地療養のため、荒れた古い屋敷に住まった夫婦が味わう恐怖と、屋敷に伝わる江戸時代の怪描譚を、現代はモノクロ、過去はカラーという手法で描き出す。冒頭の夜中の病院のシーンや、幽霊屋敷に漂う妖気、過去の怨念を受けて現れる五月藤江演ずる老婆の不気味さとかは、凄まじいものがあります。過去の化け猫の話はストレートなものだけど、とにかく描写の冴えと、現代部分の不気味さとのつながりで、恐怖を盛り上げます。怪奇映画のお手本のような作品。

８月18日【さくや 妖怪伝】
　さくや（安藤希）が主演なのかと思いきや、実はその弟の河童の少年太郎が主人公。この子がすごく生き生きした表情でいい。さくやよりエロチックな感じもする。安藤希は、まったくの大根。台詞しゃべると見てられない。顔立ちも普通の？美少女で、妖怪討伐士という役柄を満たすオーラを発するには至らない。松坂慶子扮する土蜘蛛は、良かった。巨大化してからの特撮も、本物の役者の顔の巨大化なのに、違和感なくて、本当に巨大な顔が迫って来るという異様な雰囲気を壊さない程度の力はあった。大映の妖怪映画へのオマージュもあって、それなりに楽しい作品。さくやがもうちょっとましな役者で、人間描写がもう少しちゃんとしていたらなあ。原口智生監督だけど、やはり特撮マンが監督すると、どうもねえ。

８月23日【縄と肌】(DVD)
　谷ナオミ引退記念作品は、なぜか、やくざ映画へのオマージュなのであった。谷ナオミ扮する女博徒が結婚引退するんだけど、悪いやくざ（笑）に旦那を殺されて、あれこれあって、我慢を重ねるんだけど、最後は悪いやくざをやっつけるのに乗り込んでいくという、定石通りの展開。もちろん無口でカッコイイ流れ者の助っ人もちゃんと出てきます。SMシーンは、悪いやくざに捕まって拷問を受けるみたいな感じで、イマイチなんだけど、やくざ映画としては、実にかっちりした職人的出来映えでした。おっぱいむき出しで、ドスを手にバッタバッタと敵を切り倒していくシーンは実にカッコイイ。立ち回り上手です。

８月27日（金）【徳川女刑罰史】(V)
　石井輝男監督の東映異常性愛路線。江戸時代の女性に対する残虐な拷問を描くSM時代劇。近親相姦、尼僧のレズビアン、責め絵に命をかける刺青職人の三話オムニバス。どれも直球勝負の極めてストレートな描写で、「異常な」世界にのめり込んでいく人間を描いていております。ファッションでもプレイでもなく、愛と憎しみでどろどろの人間の情念が、見た目はエログロそのものなんだけど、どこかクールで真っ平らな視線で描かれていて、感動する。きれい事の色恋なんて、ないやね。